グリムのメルヒェンと明治期教育学

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グリムのメルヒェンと
明治期教育学
-童話・児童文学の原点
Kinder- und Hausmärchen der Brüder Grimm in Japan
-eine besondere Einfuhrung durch die Herbartische Schule

中山淳子著
A5判上製・450ページ
税込8,800円(本体8,000円+税)

ISBN978-4-653-04004-0

日本の童話・児童文学の根幹を探る

 グリムのメルヒェンがドイツ教育学でどのように扱われたのか。また日本の教育学でどのように受け入れられ、童話という言葉を定着させたか。
 本書は、漠然と知られていたグリムのメルヒェンとヘルバート学派教育学との関係が、120年を経た今、明治の御雇ドイツ人教師が用いた教授用テキスト『第一学年』にあると特定したところを端緒としている。グリムの特殊な受容と、教育学での経緯を述べ、児童文学史の再構築を迫る、広いジャンルに資する一冊。

【収録内容】

前書
第1章 ヘルバート学派導入の背景と影響
1-1 ハウスクネヒトのもたらした『第一学年』
    ――なぜ二百十話の『子どもと家庭のメルヒェン』から「狼と七匹の子山羊」が多く訳されたか
1-2 グリムのメルヒェンによる教育
1-2-1 ツィラー/1-2-2 ガルモ/1-2-3 ケルン

第2章 ライン、ピッケル、シェラー『小学校教授の理論と実際』
2-1 全体構成と『第一学年』
2-2 グリム十四話(第六版)
2-3 「童話」の定着
   2-3-1  十四話のひずみ――人物の入れ替えなど/2-3-2 ジェンダーのひずみ
       
2-3-3 「童話」の定着

第3章 研究書、童話集に見るラインらの影響
3-1 明治および大正初期のグリムのメルヒェン事情
3-2 研究書の系列
      3-2-1 岸邊福雄/3-2-2 高島平三郎/3-2-3 高木敏雄
   3-2-4 蘆谷重常/3-2-5 二瓶一次/3-2-6 柳田國男
   
3-2-7 中田千畝
3-3 教育学系童話集の系列
      3-3-1 樋口勘次郎/3-3-2 佐々木吉三郎・近藤九一郎・富永岩太郎
3-4 お伽噺・童話集の系列
      3-4-1 巌谷小波/3-4-2 木村定次郎(小舟―ささふね)
      3-4-3 石井民司(研堂)/3-4-4 鈴木三重吉
      3-4-5 森林太郎・松村武雄・鈴木三重吉・馬淵冷佑
   3-4-6 島津久基・菊池寛・宇野浩二
おわりに 明治期の日本文学
資料:グリム十四話(第六版)―グリムの原話および明治の日本語訳との対比
後書
索引(人名・事項索引/文献目録・作品目録)


【推薦文】

「グリムのメルヒェンと明治期教育学――童話・児童文学の原点」について
梅花女子大学元学長  中村元保

 明治期の日本にグリム兄弟の「メルヒェン」が移入されるにあたって、ひどく歪められた形で受け入れられたことについては、近年になってやっと指摘が行われるようになったが、残念ながらそれはまだ散発的、暗示的なものにとどまっていた。ところがこのたび、中山淳子龍谷大学名誉教授は、明治期の日本におけるグリム「メルヒェン」の不自然な受容の実態を実証的に明らかにし、グリム兄弟の文学観やジャンル概念にも目配りをした上で、グリム「メルヒェン」の世界の真の姿をわれわれの前に提示した。グリム研究者のうちの誰かがいつかは果たさなければならない学問的責務がようやく果たされたのである。
 
 『子どもと家庭のメルヒェン』は、明治政府による急速な西欧化の過程で、明治20年、ヘルバート学派の教育理論に基づいた教授指導書の中で、教育材料として切り刻まれた無残な姿で日本に取り入れられたことを、われわれは本書『グリムのメルヒェンと明治期教育学』によって教えられる。それによると、小学校1年の授業が、国語はもちろん、算数も理科も、図工も音楽も、1年間すべて『子どもと家庭のメルヒェン』から選ばれた特定のいくつかの話を用いて教えるように構成されており、教師の発言する文句まで指定されている。自然な民間伝承であったはずのものに、近代化を急速に進める国家権力によってその目的に合致した姿形が強制されたのであった。さらに、こうしたグリム「メルヒェン」受容のひずみに、受け入れ側の明治期日本における男性主体という特殊な文学事情が大きく関わっていたという指摘も説得力がある。
 
 本書のこうした論考のひとつひとつが緻密な分析と考証に支えられていて、これによって全体として、日本にはびこってしまった歪められているグリムの「メルヒェン」像を、真の自然な姿に引き戻す第1歩が踏み出されたと言えよう。

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