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称名寺大蔵経
重要文化財 宋版一切経目録

神奈川県立金沢文庫編
A4判・上製・クロス装函入・本文640頁・口絵8頁
税込64,900円(本体59,000円+税)

ISBN978-4-653-04510-6

 長らく存在を知られながら入手困難であった「幻の目録」を、このたび改めて実施された悉皆調査の成果も盛り込み、新訂版として刊行する。
 目録篇は、新発見断簡類の情報を追加しただけでなく、諸典籍ごとの基礎データや総画索引を掲載。論文篇では最新の研究動向と再調査の結果をふまえた論文7篇を収録する。巻頭カラー口絵も充実。

<目次>
口 絵
刊行の辞(神奈川県立金沢文庫長 湯山賢一)
論文篇
  北条実時寄進の宋版大蔵経と天台学僧円種(髙橋秀栄)
  金沢文庫蔵「宋(福州)版一切経」について(野沢佳美)
  金沢文庫蔵宋版一切経の題記(椎名宏雄)
  僧慶政と福州版一切経について
   ――書陵部本の工房にふれながら――(中村一紀)
  称名寺大蔵経目録と宋訳仏典(岡本一平)
  称名寺大蔵経の特徴(道津綾乃)
  称名寺一切経の継承と変容
   ――附 称名寺蔵『雑経幷古書目録』翻刻――(櫻井 唯)
目錄篇(野沢佳美・中村一紀・髙橋秀栄・岡本一平・櫻井 唯・道津綾乃)
索 引


●執筆者(掲載順)   

髙橋秀栄(元神奈川県立金沢文庫長)
野沢佳美(立正大学教授)
椎名宏雄(龍泉院東堂)
中村一紀(元宮内庁書陵部図書課文献専門官)
岡本一平(慶應義塾大学非常勤講師)
道津綾乃(神奈川県立金沢文庫主任学芸員) * 編集責任
櫻井 唯(神奈川県立金沢文庫学芸課職員)

内容見本(PDF)

 

●刊 行 の 辞●

神奈川県立金沢文庫長 湯山賢一

 本書は、平成十年(一九九八)に制作された『神奈川県立金沢文庫保管 宋版一切経目録』の新訂版として刊行するものである。
 この上梓という晴れやかな事柄に際し、最初に述べるべきはお詫びである。平成十年の初版は、椎名宏雄氏、野沢佳美氏、中村一紀氏、土井光祐氏の協力を得て、称名寺大蔵経の悉皆調査が実施され、成果を記した玉稿が掲載され、製本まで終わっていた。しかし、配布できなかった。これにより、当時、最新の研究成果だった寄稿論文は発表の機会を失い、代替手段もとられなかった。経緯は後述するが、諸先生方に落ち度は一切なく、研究機関を標榜する神奈川県立金沢文庫(以下、県立金沢文庫)の決定的な過失である。何度お詫びしても足りることはない。また、刊行のためにいただいたご支援やご期待の声には、一刻も早い改訂版の作成と配布によって応えなければならなかったにもかかわらず、二十五年というあまりにも長い年月を費やした。まことに汗顔の至りである。
 つづいて、お礼を申し上げたい。まず、大蔵経の所蔵者である称名寺が出版をお許しくださったことに感謝申し上げたい。また、新訂版作成にご快諾いただき、新たなご寄稿を約束してくださった諸先生方のご海容には、ふさわしい感謝の言葉がみつからない。さらに、本書作成に必要な再調査をお引き受けいただいた、高橋秀榮元 金沢文庫長、岡本一平氏、櫻井唯氏に謝意を表したい。
 このように多くのご厚意を得て刊行する本書の、出版までの経緯を簡略に述べる。
 中国・宋代に印刷された福州版を中心に構成された大蔵経を、「宋版一切経」と総称して国の重要文化財に指定する動きは、昭和三十年(一九五五)の興福寺所蔵の大蔵経に始まり、昭和四十年代にピークを迎えた。称名寺にもこの大蔵経が所蔵されていることは、昭和十四年(一九三九)に巌松堂から刊行された『金沢文庫古書目録』に収録されている「宋版大蔵経目録」によって知られていたが、候補となることはなかった。それから約三十年が経ち、文化庁は県立金沢文庫から『宋版一切経目録』を作成したという連絡を受けて担当官を派遣した。現在、指定目録は文化庁が発行しているが、当時は所蔵者等が作成しており、県立金沢文庫から提出された目録はクリーム色の表紙だったと記憶している。その目録をもって、平成九年(一九九七)、称名寺大蔵経は「宋版一切経」として重要文化財に指定された。
 県立金沢文庫は、この目録をもとに、図書館や博物館、大学などでも利用しやすいように、豊富な口絵写真や研究論文を加えた、言ってみれば普及版を作成した。それが平成十年の初版である。しかし、肝心の目録部分に記載された書名等に誤字や文字化けが多く、信用に足る目録とは言い難かった。配布中止は県立金沢文庫の威信を保つための判断だったのだろうが、前述のとおり、次善の策が講じられることもなく、失った信用は大きかったと言わざるを得ない。
 打開策は、平成二十八年(二〇一六)に臨川書店の西之原一貴氏が訪問された際の雑談から生まれた。出版という、願ってもないご提案を受け、県立金沢文庫は翌年から再調査を開始して目録篇を修正し、新たな論文と新たな口絵を掲載した本書を上梓するに至ったのである。粉骨砕身してくださった西之原氏ならびに臨川書店に感謝申し上げたい。
 こうして刊行するに至った『称名寺大蔵経』が、少しでも多くの方の興味をひき、保管場所である県立金沢文庫を訪れていただける契機となれば幸いである。


●推薦文●

『称名寺大蔵経』の刊行によせて
上智大学特任教授・前神奈川県立金沢文庫学芸課長 西岡芳文

 歴史の転変のなかで半減したとは言え、称名寺一切経が今日までまとまって保存されてきたのは、文政の初め、江戸の豪商・石橋弥兵衛の寄進によって一括修理が行なわれ、新造の経箱に整然と収納された功績が大きい。昭和になって県立金沢文庫が再興されてからは、展示室のケースの下にガラス棚をしつらえ、密かに保存されてきたのである。
 平成になって金沢文庫新館がオープンすると、金沢文庫文書が最初に重要文化財に指定され、次は宋板一切経ということになった。私の記憶では、平成四年あたりから本格的な目録作成が開始された。最初は学芸員実習の一環として、夏休みに実習生に連日カード採りをしてもらい、それをもとに椎名先生をはじめ、その道の専門家に委嘱して詳しい調査が行なわれた。一切経の料紙(版面)一枚ごとの刻工名を詳細に記録するような調査は、当時としては先進的であり、平成九年に一括して重要文化財に指定された。
 南宋最末期に、北条実時の懇望を受けた律僧たちの命懸けの渡航によって将来された称名寺の一切経は、確かな来歴が知られる激動の時代の生き証人であり、世界史的に見ても重要な文化遺産と言えよう。このたび、新出の残巻を加え、より精密な再調査を経た新目録が公刊され、学界の共有財産になることは、たいへん有意義な成果であり、広く活用されることを願う次第である。


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