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現代社会の仏教

シリーズ実践仏教 Ⅴ

蓑輪顕量・熊谷誠慈・室寺義仁著
四六判・上製・紙カバー装・帯付 256頁
税込3,080円(本体2,800円+税)
【2020年5月刊】
ISBN978-4-653-04575-5


シリーズ四回配本第Ⅴ巻は、現代社会に息づく仏教を三章にわけて論ずる。仏教が果たしうる今日的役割とは。

<目次>
 はしがき (船山 徹)
第一章 瞑想のダイナミズム――初期仏教から現代へ―― (蓑輪顕量)
 はじめに
第一節 インド世界における心の観察
 輪廻との関連
 釈尊の悟り
 念処――釈尊の心の観察法
 念処の目的
 五蘊の発見
 止観の内実
 論典が伝える展開
第二節 東アジア世界における止観の受容と展開
 入息出息観と不浄観
 南北朝時代における心の観察
 天台の止観
 禅宗の展開
 唐・宋代の公案と行
 話頭禅
第三節 日本における止観の受容と発展
 古代の受容
 院政期における心の観察
 中世の受容と展開
 良遍の理解
 近世初頭の展開
 良寛、日臨および妙好人
 近代の展開
 戦後・現代の展開
おわりに
第二章 ブータンの実践仏教と国民総幸福(GNH) (熊谷誠慈)
はじめに
 ブータンと幸福
第一節 ブータンの概要
 ヒマラヤの王国ブータン
 ブータンへの仏教伝来
 ブータンに伝わったチベット仏教諸宗派とニンマ派、ドゥク派
 ドゥク派の分裂とブータンの建国
 ドゥク派政権による国家運営
 大英帝国との関係
 ドゥク派政権の終焉とブータン王国の成立
 ブータンの近代化(三代〜五代国王)
 ブータン社会における仏教の影響
第二節 ブータンの仏教とその思想
 ブータン国民にとっての仏教
 聖俗両立の起源(ドゥク派開祖ツァンパ・ギャレーの多様性とGNH)
 輪廻思想に基づく生活
 マハームドラー(大印契)
 ナーローパの六法
 『死者の書』の位置づけ
 土着神の扱い
第三節 ブータン社会における仏教の応用実践
 ブータン王国憲法における仏教実践の位置づけ
 GNH政策
 GNHの構成
 ゲリラとの戦争
 ネパール難民問題
 近代化・国際化における伝統との軋轢と融合
 若者の抱える問題
第四節 ブータンの幸福観の応用可能性
 ブータン仏教の位置づけ(日本仏教との共通点と相違点)
 日本仏教の可能性
 GNH政策の日本への応用可能性
  結 語
第三章 現代医療と向き合う (室寺義仁)
はじめに
 現代日本における仏教の一つの姿
第一節 現代医療の進展
 ㈠個人情報とインフォームド・コンセント
 ㈡医療情報
 ㈢臨床研究
 ㈣高齢社会における医療
第二節 教育研究機関における取り組み
 ㈠ビハーラ僧
 ㈡臨床宗教師
 ㈢光華女子大学と滋賀医科大学の例
第三節 生命倫理の四原則
第四節 「黄金律」(Golden Rule)と「不放逸」の教え
第五節 ブッダの教えから学ぶ
 ㈠心の有り様について――『ダンマパダ』の教えから
 ㈡『ダンマパダ』第二八二偈の教え――「我に入り込め」
結びに代えて
参考文献 / 図版一覧 / 索 引



編者「はしがき」より

 シリーズ実践仏教第五巻『現代社会の仏教』は、仏教の過去でなく、現代に即した役割を扱う。現代社会に息づく仏教を三章に分けて論ずる。すなわち最初期から重視されてきた瞑想法(精神統制)の今日的特徴を扱う章と、世界の国々の中でも独自の価値を有するブータン王国の仏教を解説する章、現代社会の避けられない課題として長寿と表裏一体の課題である支援介護とターミナルケアという医療において仏教が果たすべき役割を紹介する章である。

 第一章「瞑想のダイナミズム――初期仏教から現代へ」は、仏教の最初期から重視されてきた精神の集中・制御という修行、すなわち伝統的な言い方をすれば「禅」(禅定・坐禅など)や「観」(観仏・止観など)の特色とその現代性を解説する。著者の蓑輪顕量氏は日本中世仏教思想史の泰斗として知られるが、インドのデリー大学に留学した経験も有し、瞑想修行の通史的考察や現代的意義についても著書を公刊している、まさに本章にふさしい著者である。 本章は釈迦牟尼とその直弟子たちが活躍したインド初期仏教における瞑想体験から説き起こし、続く部派仏教の時代を経て、中国仏教史における瞑想を天台学の智顗と禅の語録に基づいて解説する。また、それが日本にどのように伝わり、現代にどう受け継がれているかを流ちょうな筆致で説き明かす。紙面の制約もあって蓑輪氏が直接には論じていないインド後期大乗の瞑想法については、シリーズ第一巻『菩薩として生きる』第二章第一節「坐禅と無分別」に示したカマラシーラ(八世紀後半)の説を合わせて読んでもらえれば、理解がさらに深まるだろう。 これほど広い範囲と長い時代を通観する概説は稀少であり貴重である。読者にはインド最初期から東アジア現代へのつながりに思いを馳せていただきたい。

 第二章「ブータンの実践仏教と国民総幸福(GNH)」は、極めて今日的な、古くてかつ新しいブータン王国の仏教観と宗教政策を扱う。ブータンの仏教はチベット仏教の歴史から生まれたという意味では古い歴史をもつ。その一方で、GNHという現在の国家政策は現在ならではの新しさをもつ。著者の熊谷誠慈氏は、現に活動しているブータン僧たちと緊密に交流しながら、ブータン仏教を、それ自体として、チベット仏教史の一部として、さらにネパールおよびインドとの関係性として多角的に研究する。氏はブータンをリアルタイムで知っている稀な研究者である。きっと読者の多くが感じるであろうが、熊谷氏はブータン仏教の歴史と現在を、決して手放しで全面的に称賛しているのではない。行き過ぎた楽天的賛美論でなく、不足は不足として、問題は問題として、現実を見据えながらブータンの特色と長所を探ろうとしている。読者は本章からブータン仏教の生きた現状を知り、新知見を得るに違いない。

 第三章「現代医療と向き合う」は、仏教が現代社会の医療行為とどうつながるか、また将来も含めてどのように医療に貢献すべきかを取り上げる。著者の室寺義仁氏は滋賀医科大学において、医療倫理との関係から仏教が果たし得る可能性を、特定宗派の制約を離れた立場で教えている。 本章は、まず第一節で、日々刻々と移り変わる現代医療の現状を述べる。そしてそれを承けて第二節は、ビハーラ活動と臨床宗教師をキーワードとして、仏教系の団体や大学がこれまでに実施してきた諸活動を概説する。第三節と第四節では、キリスト教文化圏の諸国が取り組んできた医療倫理を知るため、「生命倫理の四原則」と「黄金律」という言葉の意味を取り上げる。そして第五節「ブッダの教えから学ぶ」では、仏教が医療において果たすべき役割の根幹を、インド初期仏教経典『ダンマパダ』を現代語訳で紹介する形で詳しく解説する。 第五節では敢えて著者の私見をも交えながら、仏教倫理とでも言うべきもののあり方を探り出す。特定宗派の考えを越えて、開祖ブッダの言葉に基づいて仏教の一般的特徴を示そうとする記述から、読者は、細かな理論的分類でない、仏教の根本的なものの見方・考え方を知ることの大切さに気付くであろう。

 現代社会における仏教の役割は決して以上の三章に尽きるものでないけれども、少なくとも本巻の内容は、今現在の社会で仏教が果たしうる役割と今後果たすべき役割を知る上で必須の事柄と言ってよいであろう。現代仏教を現代のみと関係するものとしてではなく、二五〇〇年以上に及ぶ過去の歴史の上にある現在として、そして今後さらに展開し続ける未来への礎として本巻を読み、自らの今と切り離せない事柄を様々に考えていただければ幸いである。                   

●著者
蓑輪顕量(みのわ けんりょう)
東京大学人文社会系研究科教授
熊谷誠慈(くまがい せいじ)
京都大学こころの未来研究センター准教授(上廣倫理財団 寄付研究部門長)
室寺義仁(むろじ よしひと)
滋賀医科大学医学部医療文化学講座(哲学)教授

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